南アルプスと中央アルプスに抱かれ、
山・森・川・草原など自然豊かな長野県伊那市。
2021年7月に伊那市立伊那西小学校で
開催された、
ICT活用教育の
ワークショップの様子をご紹介します。
ICTを活用した長野県伊那市のオーガニックな学び
南アルプスと中央アルプスに抱かれ、
山・森・川・草原など自然豊かな長野県伊那市。
2021年7月に伊那市立伊那西小学校で
開催された、
ICT活用教育の
ワークショップの様子をご紹介します。
長野県伊那市の市立小中学校で伝統的に取り組まれてきた総合学習。「はじめに⼦どもありき」「子どもたちの自発性を大切に」といったキーワードとともに、教育関係者や保護者の方々からも注目されている伝統的な学びです。伊那市では、この自然や地域素材に親しみながら学びを深める取り組みに、文科省GIGAスクール構想を融合させて、「伊那市ならでは」の有機的な学びを目指しています。
2019年から始まった夏休みの課外活動「Summer Camp(サマーキャンプ)」もその1つ。市内外から小学生が集まり、自然豊かな伊那谷を舞台に地域や学年を越えて多彩な友だちや物事と出会います。この1日で得たことを自分なりにアウトプットし、子どもが自身の世界を広げられた実感を得ることを目的としています。
2021年7月27日、今年は感染症拡大防止のため広く募集を行えませんでしたが、伊那西小学校を舞台に同校の1年生〜6年生の子どもたち約50人が参加しました。校舎を取り囲む森を自由に駆け、森で発見したものや友だちとの交流を素材に動画編集アプリ「Clips」を使って自分だけの動画を編集し、みんなの前で発表しました。
伊那市に3校ある「小規模特認校」の1つで、各学年10人程度、「特色ある教育環境を活かして、一人ひとりの個性を尊重し、明るく伸び伸びとした教育」を目標とする公立小学校です。「森はぼくらの教室だ」を合⾔葉に、豊かな⾃然の中で多彩な活動を⾏い、地域の人々と深く結びついた学校生活を送っています。
子どもが発する求めや願いを大切にし、地域素材や暮らしの体験から学び成長する「総合学習」が伊那市の特徴。地域とつながり世界を広げる文房具の1つとしてタブレットを活用しています。
中山間地域のドローン物流による買い物サポートやAIタクシーの活用など新産業技術に積極的な伊那市。情報活用で社会課題に向き合う産業モデルから刺激を受け、主体的なSTEAM教育を目指しています。
伊那市立小中学校ではiPadが公式デバイス。1人1台配布され、GoogleDriveや授業支援クラウド「schoolTakt」を活用することで、小学1年生から積極的に授業に取り入れています。
今年のサマーキャンプは、動画編集アプリ「Clips」を主に活用。伊那市のICT活用教育カリキュラムでは小学4年生からClipsが導入されていますが、1〜3年生にも足助先生やGIGAサポーター(※1)が事前レクチャーを行い基本操作ができるようにサポートしました。
Clipsは基本操作がシンプルで直感的に撮影・編集ができるアプリ。各学年の習熟度に合わせたプログラムが組まれ、一人ひとりが楽しく作品作りをしていました。たった数時間で、「インプット(撮影)」「アウトプット(編集)」「プレゼンテーション(共有や発表)」まで一貫して体験できました。
※1 GIGAサポーター:ICT⽀援員(情報通信技術⽀援員)
動画の撮影、編集、SNSへのアップロードまで簡単にできるApple純正アプリ。愉快なスタンプや音楽を加えたり字幕を付けたり、楽しい動画を誰もが直感的に作れます!
Clipsを見る午前中は林間で決めたマイツリー(自分の木)をめぐって森の中を歩き、校舎の中も探検し、友だちや先生の様子を自由に撮影。写真や動画を順番につなぎ、にぎやかなスタンプやBGMで彩り、1分間の動画に仕上げました。まだ手書きでは文章をスムーズに書けない低学年の子も、Clipsでは声で字幕入力ができるので楽しく取り組んでいました。教室で写真や動画を再生するたびにセミの鳴き声が響き、森で得た感動が何度も再生産されることで、想い出深い1日になったようでした。
作品発表は、子ども自身が自分のiPadからAirPlayでTVモニタにミラーリングしていたのも驚きでした!
1、2 年⽣はサマーキャンプ後も積極的にClips作品づくりに取り組み、
「つくること」「つたえること」への関⼼を深めていました。
⽇常的にiPad を活⽤して楽しく学んでいます。
伊那市はミヤマシジミの幼虫が育つコマツナギの生息地。3年生はミヤマシジミの観察を通して、伊那の自然環境の貴重さを学んでいます。午前中は、コマツナギが生えている場所へと出かけ、ミヤマシジミとふれあいながら、地域講師や研究者の方から直々に、性別の見分け方や幼虫の見つけ方をはじめ、ミヤマシジミのことをたくさん教わりました。夏休み開けにはミヤマシジミの卵を分けてもらい、学校で大切に育てるそうです。
教室に戻ってからは、各自ミヤマシジミを観察してわかったことをまとめ、他にも森のモンシロチョウやカブトムシなどの情報も交えながら、2分程度の動画に編集していました。
サマーキャンプでミヤマシジミへの関⼼はさらに深まり、
2学期には関⻄の⼤学の研究者の先⽣とオンライン交流を重ね、
伊那⾕の⾃然を守ろうと実感した3年⽣でした。
普段から「森のおやつ屋さん」として、調理したおやつを他学年にごちそうしている4年生。クラスメイト6人で、森で見つけたクワの実などを使ったジャムづくりのレシピ動画を作りました。絵コンテを描き、セリフを考え、監督・カメラ・役者・タイムキーパーなどの役割分担をして撮影した動画を、クラウドを利用して共同編集して1本の映画につなげました。1人でやるよりもみんなで作ることでいろんな工夫ができ、良くなった実感があったようです。
後日「森の映画屋さん」として他学年を招いて、森の教室で上映しました。さらに秋には、サマーキャンプの体験を発展させて、長編映画を撮影・編集させました!
各自テーマをもって森を歩き、面白い! と思ったものを自由に写真や動画を撮りためていきます。帽子いっぱいにセミの抜けがらを付けた子や、「これ見て!」「なぞのキノコ!」「なぞの……ジャガイモ?」など、iPad片手にとてもフレンドリーな5年生。
編集にも熱が入っていて、インターネット上で参考資料を探して引用していたり、セミのシーンには鳴き声を加えて臨場感を出したり、さまざまな工夫をしていました。みんなの前でClipsを再生しながら原稿を読んで発表し、プレゼンテーションのコツも学べていました。気軽に動画編集できるClipsが面白く、「2学期にもやろう!」と盛り上がっていました。
Clipsに夢中になった5年⽣は、2学期には⻑野⾒学で体験してきたことを
Clips動画にしてみんなの前でプレゼンテーション。
サマーキャンプの学びをさらに発展させていました。
4年生のときから構想を練り、地元の建築士の方から家の作り方を教わり、林間整備のために伐採されたアカマツや竹を材料に、屋根にシダなどの植物を植えて緑化するアイデアも取り入れた、林間の「みんなのお家」づくり。せっせと建築作業に勤しむ様子をiPadで撮影していました。これまでの建設風景の写真も使って、自分たちが森で感じた楽しい気持ちが伝わるような動画づくりを目指します。
講師の方から「動画編集で大切なのは、伝えたいメッセージを先に決めること」と教わり、見る人にどう感じてほしいかを考えながら写真や動画を選び、エフェクトやBGMを入れて、「伝わる動画」づくりを意識していました。お家は9月に完成してお披露目されました!
⾃分たちが⼤好きな森に⾃分たちのアイデアと⾏動で作りあげた「みんなのお家」。
家づくりでも動画づくりでも、息のあった協⼒と共同編集ぶりを⾒せてくれました。
午前中はiPadを手に森を自由にめぐって好奇心のままに発見と撮影。スイカの差し入れやアイスクリームで休憩、お弁当を食べたら、午後は撮りためた素材を編集してみんなの前で発表します。
子どもたちの好奇心や森での出会いをスピーディに記録できるiPad/Clips。撮影→編集→共有までがひと続きに実現でき、驚きと満足げな子どもたちの表情が印象的でした。
「続きは来週」ではなく、その日その場で得た感動を自分の手で「誰かに伝える」カタチに作り上げられる体験。一人ひとりの「できた!」が2021年のサマーキャンプの一番の収穫となりました。
Clipsはかんたんだった。どの写真を使うかを自分で考えて1分におさめられたのでよかったです。
初めてClipsを使ったけど、もっと使いこなせるようになりたい。同じ森で撮ったのにみんないろいろな動画で面白かった。
見てくれる人のことを考えてBGMやスタンプを選んだり字幕を入れたりして、自分たちが大好きな森をどう伝えるか工夫しました。
iPadが、鉛筆やノートのように学習の道具の1つとなれば良いなぁと考えていましたが、サマーキャンプを通して⼦どもたちは、鉛筆やノートだけではできない「表現⽅法」を⼿に⼊れることができました。
林間で感じることのできる「わぁ〜」「へぇ〜」「すご〜い」「どうして」「ふしぎ」は、学年によって、⼀⼈ひとりによっても違うけれど、その瞬間を写真に収めることができました。そこで感じたことをいろんな⼈に伝えるためにClipsが活躍しました。
完成した作品を⾒ると、低学年の⼦どもたちは作る「楽しさ」が感じられ、⾼学年の⼦どもたちは、そこに関わってきた「思い」や「願い」、誰かに「伝えたい」相⼿意識が作品からにじみ出てきます。写真に⾳楽や吹き出し、ナレーションも加わって、表現する幅が今までと⽐べものにならないくらい広がったと思います。
伊那市立伊那西小学校 学校⻑私は現地で、弊社メンバー数人はオンラインで、外部講師として参加しました。
現地で印象的だったのは、伊那西小学校の子どもたちの笑顔と「森の教室が大好き!」という気持ち。森のことをもっと知りたい・調べたい・やってみたい!という前向きな姿勢で、「主体的に学ぶ」姿を目の当たりにしました。オンラインでは、セミの鳴き声や自然のパワーを画面越しに感じることができた一方、全体像や状況を把握しにくく的確なアドバイスや声がけが難しい点もありました。しかし子どもたちは対面で会話するように工夫して報告するなど、オンラインにも積極的に接していました。
今年度のサマーキャンプは伊那市のICT活用教育に掲げる内容とマッチしており、学校林というリソースを活かして知的好奇心を駆り立て、iPadが自発的な学びの補助ツールとして利用されている素晴らしい学習実践でした。この取り組みを広く発信して、伊那市が全国のICT活用教育のリーダー的存在となることを祈っております。そしてオンラインなどで交流する学習が継続して行われ、主体的に学び、新しい考えをたくさん吸収して、伊那市の子どもたちが世界に羽ばたいていくことを楽しみにしています。
SB C&S株式会社サマーキャンプは毎年7月〜8月に開催予定です。
参加や取材希望の方は、伊那市教育委員会までお問い合わせください。
また、伊那西小学校への転入学を検討している方、伊那市への移住を検討している方も、
お気軽に「伊那市 移住・定住 相談窓口」までご連絡ください。