ほとんど原作のままで、あまり手を加えていません。手を加えるとこの作品をだめにしてしまいそうで・・・。その代わり子ども達に「読み方」を工夫してもらいました。子ども達には、ナレーションの子どもも含めて人物になったつもりで読んでもらいました。(3年生には難しかったかもしれません。)また、空襲の場面とそうでない場面のスピードの差をつけることもしつこく要求しました。そして、なんといっても、シナリオの26番を読んだ子は私からいろいろ要求されて難しかったかもしれません。練習の中で子ども達なりに意見を出し合って作品を作ろうとした場面が幾つも見られました。
シナリオのナレーション部分の番号を分担して読みました。登場人物の役は特定の子に固定し、自分のせりふのところをすべて読みました。
音楽を使いました。久石譲さんの[deer’s wind」
効果音を使いました。「空襲警報」(http://www.s-t-t.com/wwl/se.htmのフリー素材「サイレン」の周波数を変更して使用)
音楽オンガク
ちいちゃんのかげおくり      あまんきみこサク
1 「かげおくり」って遊びをちいちゃんに教えてくれたのは、お父さんでした。
2 出征する前の日、お父さんは、ちいちゃん、お兄ちゃん、お母さんをつれて、先祖のはかまいりに行きました。その帰り道、青い空を見上げたお父さんが、つぶやきました。
トウさん 「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」
ニイちゃん 「えっ、かげおくり。」
と、お兄ちゃんがきき返しました。
ちいちゃん 「かげおくりって、なあに。」
と、ちいちゃんもたずねました。
トウさん 「十、数える間、かげぼうしをじっと見つめるのさ。十、と言ったら、空を見上げる。すると、かげぼうしがそっくり空にうつって見える。」
と、お父さんが説明しました。
トウさん 「父さんや母さんが子どもの時に、よく遊んだものさ。」
カアさん 「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」
と、お母さんが横から言いました。
 ちいちゃんとお兄ちゃんを中にして、四人は手をつなぎました。そして、みんなで、かげぼうしに目を落としました。
「まばたきしちゃ、だめよ。」
と、お母さんが注意しました。
「まばたきしないよ。」
3 ちいちゃんとお兄ちゃんが、やくそくしました。
「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ。」
と、お父さんが数えだしました。
「ようっつ、いつうつ、むうっつ。」
と、お母さんの声も重なりました。
「ななあつ、やあっつ、ここのうつ。」
ちいちゃんとお兄ちゃんも、いっしょに数えだしました。
「とお。」
4 目の動きといっしょに、白い四つのかげぼうしが、すうっと空に上がりました。
「すごうい。」
と、お兄ちゃんが言いました。
「すごうい。」
と、ちいちゃんも言いました。
「今日の記念写真だなあ。」
と、お父さんが言いました。
5  次の日、お父さんは、白いたすきをかたからななめにかけ、日の丸のはたに送られて、列車に乗りました。
「体の弱いお父さんまで、いくさに行かなければならないなんて。」
お母さんがぽつんと言ったのが、ちいちゃんの耳には聞こえました。
6  ちいちゃんとお兄ちゃんは、かげおくりをして遊ぶようになりました。ばんざいをしたかげおくり。かた手をあげたかげおくり。足を開いたかげおくり。いろいろなかげを空に送りました。
7  けれど、いくさがはげしくなって、かげおくりなどできなくなりました。この町の空にも、しょういだんやばくだんをつんだひこうきが、とんでくるようになりました。そうです。広い空は、楽しい所ではなく、とてもこわい所にかわりました。
効果音コウカオン空襲クウシュウ警報ケイホウカタ 速度ソクドげる
8  夏のはじめのある夜、空しゅうけいほうのサイレンで、ちいちゃんたちは目がさめました。
「さあ、急いで。」
お母さんの声。
9  外に出ると、もう、赤い火が、あちこちに上がっていました。
10  お母さんは、ちいちゃんとお兄ちゃんを両手につないで走りました。
 風の強い火でした。
11 「こっちに火が回るぞ。」
アンサンブ こっちに火が回るぞー
12 「川の方へにげるんだ。」   
コーラス カワホウへにげるんだ。
だれかがさけんでいます。
13  風が
+ア あつくなってきました。
ほのおのうずが
+コ 追いかけてきます。
お母さんは、ちいちゃんをだき上げて走りました。
「お兄ちゃん、はぐれちゃだめよ。」
14 ニイちゃんがコロびました。
15 アシからています。
14 ひどいけがです。
14+15 カアさんは、おニイちゃんをおんぶしました。
「さあ、ちいちゃん、母さんとしっかり走るのよ。」
 けれど、たくさんの人に追いぬかれたり、ぶつかったり―、
アンサンブ ぶつかったり、追いぬかれたり―
ちいちゃんは、お母さんとはぐれました。
(おカアさん、おニイちゃん後方コウホウがる)
「お母ちゃん、お母ちゃん。」
ちいちゃんはさけびました。
15  そのとき、知らないおじさんが言いました。
(おじさんマエへ)
おじさん 「お母ちゃんは、後から来るよ。」
そのおじさんは、ちいちゃんをだいて走ってくれました。
カタ 速度ソクドとす
16  暗い橋の下に、たくさんの人が集まっていました。ちいちゃんの目に、お母さんらしい人が見えました。
「お母ちゃん。」
と、ちいちゃんがさけぶと、おじさんは、
「見つかったかい、よかった、よかった。」(おじさんがる)
と下ろしてくれました。
 でも、その人はお母さんでは。ありませんでした。
 ちいちゃんは、ひとりぼっちになりました。ちいちゃんは、たくさんの人たちの中でねむりました。
17  朝になりました。町の様子は、すっかり変わっています。あちこち、けむりがのこっています。どかがうちなのか―。
(おばさんマエへ)
おばさん 「ちいちゃんじゃないの。」
という声。ふり向くと、はす向かいのうちのおばさんが立っています。
「お母ちゃんは。お兄ちゃんは。」
と、おばさんがたずねました。ちいちゃんは、なくのをやっとこらえて言いました。
「おうちのとこ。」
「そう、おうちにもどっているのね。おばちゃん、今から帰るところよ。いっしょに行きましょうか。」
おばさんは、ちいちゃんの手をつないでくれました。二人は歩きだしました。
18  家は、やけ落ちてなくなっていました。
「ここがお兄ちゃんとあたしの部屋。」
ちいちゃんがしゃがんでいると、おばさんがやって来て言いました。
「おかあちゃんたち、ここに帰ってくるの。」
ちいちゃんは、深くうなずきました。
「じゃあ、だいじょうぶね。あのね、おばちゃんは、今から、おばちゃんのお父さんのうちに行くからね。」(おばさんがる)
ちいちゃんは、また深くうなずきました。
19  その夜、ちいちゃんは、ざつのうの中に入れてあるほしいいを、少し食べました。そして、こわれかかった暗いぼうくうごうの中でねむりました。
「お母ちゃんとお兄ちゃんは、きっと帰ってくるよ。」
20  くもった朝が来て、昼がすぎ、また、暗い夜がきました。ちいちゃんは、ざつのうの中のほしいいを、また少しかじりました。そして、こわれかけたぼう空ごうの中でねむりました。
音楽オンガク
21  明るい光が顔に当たって、目がさめました。
「まぶしいな。」
 ちいちゃんは、暑いような寒いような気がしました。ひどくのどがかわいています。いつの間にか、太陽は、高く上がっていました。
22  そのとき、
「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」
というお父さんの声が、青い空からふってきました。
「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」
というお母さんの声も、青い空からふってきました。
 ちいちゃんは、ふらふらする足をふみしめて立ち上がると、たった一つのかげぼうしを見つめながら、数えだしました。
「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ。」
23 いつの間にか、お父さんの低い声が、重なって聞こえだしました。
「ようっつ、いつうう、むうっつ。」
お母さんの高い声も、それに重なって聞こえだしました。
「ななあつ、やあっつ、ここのうつ。」
お兄ちゃんのわらいそうな声も、重なってきました。
「とお。」
ちいちゃんが空を見上げると、青い空に、くっきりと白いかげが四つ。
「お父ちゃん。」
ちいちゃんはよびました。
「お母ちゃん、お兄ちゃん。」
 そのとき。
体がすうっとすきとおって、空にすいこまれていくのが分かりました。
24  一面の空の色。ちいちゃんは、空色の花畑の中に立っていました。見回しても、見回しても、花畑。
「きっと、ここ、空の上よ。」
と、ちいちゃんは思いました。
「ああ、あたし、おなかがすいて軽くなったから、ういたのね。」
25  そのとき、向こうから、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが、わらいながら歩いてくるのが見えました。
「なあんだ。みんな、こんな所にいたから、来なかったのね。」
ちいちゃんは、きらきらわらいだしました。わらいながら、花畑の中を走り出しました。
(ゆっくり、はっきり)
26  夏のはじめのある朝、こうして、小さな女の子の命が空に。
 消えました。カナしみをめて)
27 それから何十年。町には、前よりもいっぱい家がたっています。ちいちゃんが一人でかげおくりをした所は、小さな公園になっています。
28  青い空の下、今日も、お兄ちゃんやちいちゃんぐらいの子どもたちが、きらきらわらい声を上げて、遊んでいます。
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